猫ひっかき病は、その名の通り、ネコに咬まれたり、引っかかれたりして発症する病気です。病原体を持っているイヌやノミから感染することもあります。
発生は7月から12月にかけてが多く、ノミが発生・増殖する時期と深い関わりがあるようです。日本では病気自体があまり知られていなかったため、まだ報告件数はあまり多くありませんが、アメリカでの患者数は年間約4万人にものぼると言われています。
病原体

日本大学 生物資源科学部 獣医学科 丸山 総一 博士提供
バルトネラ菌(Bartonella henselae)
ネコノミが媒介する細菌で、ネコの5~20%(日本のネコだけでは7.2%)が保有していると言われています。
人への感染源となりうる動物
[イヌ・ネコ]
症状

左腋窩リンパ節の腫大 公立八女総合病院院長 吉田 博 博士提供
数日から2週間ほどの潜伏期間の後、受傷した部分の丘疹や膿疱、発熱、疼痛と、数週間から数ヶ月続くリンパ節の腫脹があります。発症した人の約0.25%に脳症を併発することもあります。脳症は、リンパ節腫脹の1~3週間後に、突然の痙攣発作や意識障害で発症します。
感染経路
感染したネコやイヌによる咬傷やひっかき傷、感染ノミによる咬刺によって、バルトネラ菌が体内に侵入し、感染します。
病原体を媒介する動物
[ノミ(ネコノミ)]
ネコとネコの間、ネコとイヌの間を媒介しますが、ノミから人が直接感染する場合もあります。
検査可能機関
日本大学生物資源科学部 獣医学科 獣医公衆衛生学教室
患者の血清診断、分子生物学的・微生物学的な診断が可能。
治療するには
- 軽度のリンパ節腫大症例では、自然治癒を待つ。
- リンパ節の腫大、疼痛が明らかな場合はセフェム系、 あるいはニューキノロン系抗菌薬の投与を行うが、各種の抗菌薬による治療効果は認められない。
予防するには
- ネコやイヌの保菌状況は不明なので、飼育しているペットにも注意を注ぐ。
- ネコやイヌの爪は、常に短く切っておく。
- 過剰に興奮させ、引っ掻かれたり咬まれたりしない方が感染の機会は少ない。
- ノミの定期的な駆除・予防を行う。
- 感染が推測される状況ならば医師に相談するよう勧告する。
ペットの場合
症状
感染したネコやイヌは、菌血症を起こすが、特別な症状を示さない。
検査可能機関
- 日本大学生物資源科学部 獣医学科
- 獣医公衆衛生学教室
動物の血清診断、分子生物学的・微生物学的な診断が可能です。
診断するには
- 血清診断は間接蛍光抗体法(IFA)、ELISAによる。IFAでは血清の抗体価が64倍以上、 またはペア血清で4倍以上の抗体価上昇により陽性と判定される。
- 菌の分離には、血液やリンパ節材料を用いる。血液から菌を分離する場合、血液を一度凍結、融解して赤血球を溶血させた後、3,800rpm・70分間遠心。その沈渣にMedium199を加えたものを5-7%ウサギ血液加ハートインフュージョン寒天培地に塗抹し、35-37℃・5%CO2下で培養※。株によりラフ型あるいはスムース型の微小なコロニーを形成するが溶血性は示さない。
※通常1-2週間でコロニーが形成されるが、初代分離培養の場合、4週間培養を続ける必要がある。 - B.henselaeを疑う菌の同定は、抽出したDNAのクエン酸合成酵素遺伝子のPCR法を用いる。さらにPCR増幅産物を2種の制限酵素Taq I, Hha Iで切断。断片の電気泳動パターンにより他のB.henselae属菌と区別する。
治療するには
通常無症状で保菌状態であるため治療対象にならない。
予防するには
ノミの定期的な駆除・予防により、本菌の動物間での循環サイクルを遮断する。