エキノコックス症は、キタキツネや犬などに寄生し、人に感染すると重い肝機能障害を起こします。潜伏期間は5~15年で、発症すると病巣を完全に切除する以外に有効な治療法はありません。
日本では北海道だけに存在すると考えられてきましたが、最近の調査で北海道以外での感染が確認されています。
病原体

多包条虫(Echinococcus multilocularis)
テニア科エキノコックス属に分類される条虫で、本来イヌ科の動物を終宿主としています。中間宿主となる人の体内で嚢胞をつくり、次々に全身の臓器に転移します。
人への感染源となりうる動物
[キツネ・イヌ]
イヌ科の動物から次世代の感染源となる虫卵が排泄されます。野生動物では各種のキツネ、ペットではイヌが問題になっています。
症状

エキノコックスが寄生し組織が壊死した人の肝臓 環境動物フォーラム 神谷正男先生提供
感染して5~10年は無症状期で自覚症状がありません。その後、嚢胞が大きくなるにつれ、肝臓内の胆管・血管が塞がれ、肝機能障害が進みます。嚢胞が胸腹壁や周囲の臓器を圧迫し、疼痛や違和感などの症状が現れはじめます。末期には重度の肝機能不全となり、黄疸や腹水、浮腫などが現れるとともに、発育中の嚢胞の一部が崩壊し、多包虫が血流に乗って肺や脳、骨髄など、さまざまな臓器に転移します。
放置すると90%以上が死亡します。
感染経路
経口感染
感染したキツネやイヌは糞便の中に多量の虫卵を排泄します。これが本来の中間宿主である野ネズミに食べられると、主に肝臓で幼虫が増殖します。人が誤って虫卵を飲みこむと肝臓などに幼虫が寄生します。
検査可能機関
- 血清抗体の測定が行える一部の民間検査所
- 旭川医大 寄生虫学教室では、多包虫に特異的なEm18に対する血清抗体の測定を行っています。
- 画像診断は北海道大学医学部第一外科で実施。
治療するには
- 患部の外科的摘出が選択される。切除できない場合、死亡率は5年で70%、10年で94%に達する。
- メベンダゾールあるいはアルベンダゾールの投与が試みられているが効果は一定でない。
予防するには
流行地での居住、旅行に際してキツネ、イヌなどとの接触や、虫卵に汚染した可能性のある水、山菜などの摂取を避ける事である。また、流行地においては、飼いイヌの検便を確実に行い陽性の場合は、獣医師の立会いの下にプラジカンテルによる駆虫を実施することが重要である。
※出典:厚生労働省(2004)「犬のエキノコックス症対策ガイドライン2004 - 人のエキノコックス症予防のために - (p.34)」
ペットの場合
症状
イヌはほとんどの場合、不顕性感染。感染した野ネズミを食べることで感染する。感染したイヌは、やはり糞便中に多量の虫卵を排泄する。
病原体を媒介する動物
[野ネズミ]
中間宿主、ネズミから人への感染はありません。
検査可能機関
環境動物フォーラム(札幌市)
診断するには
- 北大大学院の獣医学研究科寄生虫学研究室で 開発されたモノクロナール抗体EmA9を用いたサンドイッチELISAは、感染早期(1週間後)でも糞便内の寄生虫成虫由来抗原の検出が可能で、虫卵を排泄する以前(プレパテントピリオド26-30日間)の診断に有用。
- 10隻以下の少数寄生では、寄生虫抗原を検出できず陰性反応となる場合もあるが、糞便の虫卵検査(蔗糖液遠心浮遊法)よりも感度が高いと考えられる。
- 糞便検査で虫卵を検出するが、多包条虫卵は他のテニア科条虫卵と形態的に区別できないので、虫卵が排泄されている場合は最終確認のためDNA検査が必要(北大寄生研で実施)。
治療するには
成虫に対してはプラジクアンテル (商品名ドロンシット)5mg/kgの投与でほぼ100%の駆虫効果がある(Rommel et al.,1976)。
予防するには
- イヌに中間宿主である野ネズミを食べさせないことが予防上肝心。
「ペットのエキノコックス診断・治療および虫卵対策について」北海道大学編 - 流行地域ではイヌの繋留が原則。実行できない場合は下記要領で予防的投薬。プラジクアンテル(商品名ドロンシット)5mg/kgを30日ごとに定期的に投与。近隣で本感染症が見出された場合などは10mg/kgまたは5mg/kgを2日間で、25日ごとに投与。