イヌの約75%、ネコのほぼ100%が口腔内常在菌として病原体を保有しています。他の人獣共通感染症(ズーノーシス)とは比較にならないほど高い病原体保有率ですが、この感染症の存在はほとんど知られていませんでした。
これまでは皮膚化膿症が主な症状であるとされてきましたが、最新の調査では、呼吸器系の疾患、骨髄炎や外耳炎などの局所感染症、敗血症や髄膜炎など全身重症感染症、さらには死亡に至った例も確認されています。
病原体

日本大学医学部 臨床病理学教室 荒島 康友 博士提供
パスツレラ属菌(Pasteurella multocida)
パスツレラ症では現在、P.multocida、P.canis、P.dagmatis、P.stomatis の4種類がイヌ・ネコに起因する感染症の原因菌として確認されています。
人への感染源となりうる動物
[イヌ・ネコ・鳥類]
他の感染症にはないほど高い原因菌保有率のため、ペットオーナーが最も注意しなければならない感染症です。
症状
お年寄りや糖尿病患者などの抵抗力の弱い人などが発症する日和見感染が多いことが判明しています。

右手小指肉芽造成 日本大学医学部 皮膚科 原 弘之 博士提供
呼吸器系関連
人のパスツレラ症の約60%を占めています。気管支拡張症や結核、悪性腫瘍などの疾患がある場合に発症しやすく、繰り返し発症することがあります。症状は軽い風邪のようなものから、重篤な肺炎までさまざまです。
皮膚科関連
パスツレラ症の約30%を占める症状です。咬まれたり、ひっかかれたりした後、約30分~2日で受傷部に激痛、発赤、腫脹を起こし、蜂窩織炎となることが多く、糖尿病などの基礎疾患がある場合は重症化し、骨髄炎や敗血症に進むことがあります。
死亡例も報告されています。
感染経路
経口感染・経皮感染
感染したイヌやネコに咬まれたり、ひっかかれたりする外傷性や、ペットに口移しでエサを与えるなど、過剰なスキンシップによって感染します。まれに、飛沫による感染も報告されています。
病原体を媒介する動物
特になし
検査可能機関
- 菌の分離培養:一般の臨床検査会社
- 同定検査のみ:日本大学医学部 臨床検査医学
- 血清学的検査:日本獣医生命科学大学 獣医微生物学教室
治療するには
ペニシリン系、セファロスポリン系などパスツレラ属菌に有効な抗菌薬を投与する。
予防するには
- ネコやイヌの常在菌であることを衆知させ、ペットを寝室に入れさせないよう徹底させる。
- 健康に負荷のある飼い主(糖尿病、肝障害や免疫不全などの基礎疾患のある人々)は、ネコをいたずらに興奮させるような遊びは控える。
- ネコの爪は、こまめに切る。
- 感染の可能性が考えられる状況ならば医師に
ペットの場合
症状
一般に、イヌやネコが感染しても明確な症状は現れない。まれにネコが肺炎を起こすことがある。また、ネコ同士の争いによって咬まれたり、ひっかかれたりした場合、傷が化膿し、蜂窩織炎を起こすこともある。
検査可能機関
北里研究所コンパニオンアニマルラボラトリー ほか
診断するには
口腔内常在菌であるため、検査はほとんど意味がない。
治療するには
- 常在菌であるため、特殊な場合(肺炎など)を除いて治療対象とならない。
- 人への対応に準拠する。
予防するには
- 常在菌であるので予防は現実的には不可能。
- 健康に不安な飼い主はペットは室内飼育を励行する。