狂犬病は、人が発症すると、ほぼ100%死に至るという非常に恐ろしい感染症です。北海道は狂犬病予防対策として、2003年4月より、道内の港に入港するロシア船から上陸する犬(ロシア犬)の監視事業を国と共同で実施すると明らかにしました(ロシアでは1998年に7人が発病しています)。道内の12の港の周辺では、ロシア犬とみられる犬が2003年2月までの3年間で116頭捕獲されています。これらの犬は本来義務づけられている狂犬病の検疫を受けておらず、人への感染の可能性が指摘されていました。
病原体

タイ赤十字研究所 シャナロン・ミトゥムーン・ビタク 博士提供
狂犬病ウイルス(Rabies virus)
ラブドウイルス科リッサウイルス属に分類されるウイルス。環境への抵抗力は比較的弱いとされています。
人への感染源となりうる動物
[イヌ・ネコ・小型哺乳類]
主な動物はイヌ。また、スカンクやアライグマ、コウモリがなどが上げられます。まれにネコやウシ、ヒツジ、ヤギ、プレーリードッグなどの動物から感染することもあります。
症状
前駆症状(ウイルスが脳に達した時)
咬傷部周辺のかゆみや疼痛、頭痛、発熱などが現れます。
急性期症状
見当識障害、幻覚、マヒなどが現れ、水を飲む際、咽頭部に激しい痛みをともなった痙攣が起こり、水を見ただけでも発作がでることがあります(恐水病)。この痙攣症状は顔に風が当たっただけで起こることもあります(恐風病)。
発症した場合、ほぼ100%の致死率です。
感染経路
経皮感染
人への狂犬病ウイルスの侵入門戸は、通常、狂犬病患獣による咬傷ですが、感染動物に傷口やその周辺をなめられたり、感染動物の唾液が粘膜について感染することもあります。また多数のコウモリが棲む洞窟内に入り、狂犬病ウイルスを含んだコウモリの唾液をエアロゾルの形で吸い込み、狂犬病を発病した例もあります。角膜移植以外でのヒト-ヒト間の感染例は報告されていません。
流行様式などから2タイプに分類できます。
都市型感染 | ペットのイヌ(まれにネコ)の咬傷から感染するもので、人が感染する危険性が高いといえます。 |
森林型感染 | キツネやアライグマ、スカンク、コヨーテ、コウモリなどの野生動物からの感染です。ネコから人への感染はこのタイプが優勢です。 |
病原体を媒介する動物
特になし
狂犬病は動物から動物へ直接感染します。主な伝播動物は、アジアではイヌ、ヨーロッパではキツネ、北米ではアライグマやスカンク、南米では吸血コウモリなど、国(地域)によって異なります。
治療するには
特異的な治療法はない。対症療法のみ。
予防するには
咬まれる前の予防[暴露前予防]と咬まれた後の狂犬病発病予防[暴露後発病予防]がある。
[暴露前予防]
組織培養型不活化ワクチンを1ヶ月おきに2回、さらに6ヶ月後に1回接種して、狂犬病に対する免疫を獲得する(非清浄国への渡航の際)。
[暴露後発病予防]
狂犬病が疑わしい動物に咬まれたあとのこの予防は、石鹸で傷口を十分に洗浄後、上記ワクチンを、初回接種の日を0日として、0、3、7、14、30、90日の6回接種する。
受傷状況により、ヒト抗狂犬病免疫グロブリンの接種(日本では入手不可)。
ペットの場合
症状
潜伏期間は10日~6カ月と長期間だが、通常は3~8週間。前駆期は2~3日。怒りっぽくなるなど性格が変化する。1~7日間続く興奮期は症状が最も明確(興奮期が明確=狂躁型、興奮期不明確で麻痺が目立つ=麻痺型)。神経質で落ち着かず、わずかな刺激にも過剰反応し、何にでも咬みつくので非常に危険である。咽喉頭の筋肉麻痺で鳴き声が変わり、下顎が麻痺、よだれを垂らす。興奮期末期は痙攣発作が起き、この時期に死亡するか、昏睡を経てやがて死亡する。この間およそ1~7日。麻痺型では、咬筋や嚥下筋の麻痺で飲食ができず、よだれを流し、麻痺が全身に広がり、2~4日で死亡する。
診断するには
- 古典的ネグリ小体検出は感度が70%程度であるため、現在は一部の発展途上国を除いて行われていない。
- 狂犬病ウイルスの検出(マウス脳内接種法、培養細胞によるウイルス分離)、狂犬病ウイルス抗原の検出(蛍光抗体法)、狂犬病ウイルス核酸の検出(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)
治療するには
特異的な治療法はない。
予防するには
日本では狂犬病予防法で、生後3ヶ月以降のイヌは毎年1回、狂犬病ワクチンの接種を受けることが義務づけられている。
狂犬病予防法(第三章第八条)による義務
狂犬病にかかった犬もしくは、狂犬病にかかった疑いのある犬等または、これらの犬等にかまれた犬等を診断した獣医師は、最寄りの保健所へ届け出なければならない。また、獣医師の診断を受けていない場合は、犬等の所有者が届け出なければならない。