トキソプラズマ症は、ネコの糞便などから口を経由して妊婦に感染、それが胎児に障害をもたらす病気です。ネコは、妊婦との同居が好ましくないと言われますが、その根拠となっているのがこの感染症。しかし、ネコがトキソプラズマ症の原因となるオーシスト(虫卵)を排泄する期間はそれほど長くなく、胎児にとって危険なのは、“母親が妊娠時に初感染”した場合に限られます。欧米ではネコの糞便よりも、感染した生肉や生乳から感染するケースが多いと言われています。
病原体

細胞内で増殖するタキゾイド サエキベテリナリィ・サイエンス 佐伯 英治 博士提供
トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)
単細胞動物である原虫。ネコの糞便に排出されるオーシストは、通常の石鹸や消毒薬に強く抵抗し、屋外で1年以上も生存したとの報告もあります。ネコ以外の動物(人を含む)の体内では、急性期のタキゾイドと慢性期のシストと呼ばれるふたつの発育期の虫体が見られます。
人への感染源となりうる動物
[ネコ]
加熱不十分な豚などの肉のなかに生き残っているシスト(オーシストが発育し、その動物の筋肉内に形成した嚢)が問題となることがあります
症状

ヒトの脳内に形成されたシスト サエキベテリナリィ・サイエンス 佐伯 英治 博士提供
先天性感染
原虫が母体から胎盤(タキゾイド)を経て胎児に移行した場合、死流産を招いたり、網脈絡膜炎、脳水腫、脳内石灰化、神経・運動障害、発熱、リンパ節腫大、貧血、発育不良などを引き起こすことがあります。まれに、生後1年~10年以上経ってから網脈絡膜炎、中枢神経障害が現れることもあります。
後天性感染
多くの場合、不顕性感染です。しかし、一度に大量の原虫に感染したり、エイズや免疫抑制剤の投与によって免疫力が低下していた場合、発熱や貧血、発疹、リンパ節腫大、肝腫大、肺炎、脳膜炎などの症状が現れます。
免疫不全患者では、髄膜脳炎による死亡例も多数報告されています。
感染経路
経口感染
ネコでは糞便とともに排泄されるオーシストが、また、ブタなどの食肉に潜むシストが口に入ることによって感染します。ごくまれに、経気道、経皮感染もあるようです。
病原体を媒介する動物
[ゴキブリ・ハエ(機械的伝播)・ネズミ(中間宿主)]
検査可能機関
妊婦は各病院おいて、任意で検査が可能。
治療するには
- ピリメサミンとサルファ剤(スルファモノメトキシン)を併用する。骨髄抑制の予防のために葉酸投与。
- サルファ剤とアセチルスピラマイシンを併用する。
予防するには
- 屋内外出入り自由のネコ(とくに幼ネコ)の糞便は24時間以内に処理する。
- 食器類やネコのトイレの熱湯消毒(60℃30分、80℃1分、100℃数秒でオーシスト死滅)。
- 上記の日常飼育は、初回抗体検査が陰性の妊婦や免疫不全者に代わって他の家人が行うべき。
- 市販の豚肉はほぼ安全であるが、加熱不十分な食肉は避ける。
ペットの場合
症状
ネコやイヌの場合、ほとんどが不顕性感染。ネコは無症状のままトキソプラズマのオーシストを排泄する(イヌはオーシストを排泄しない)。ネコ白血病やストレスなど、免疫を低下させるような要因があった場合、体温上昇、呼吸困難をともなう間質性肺炎や肝炎を起こすことがある。
検査可能機関
動物病院
診断するには
- ペア血清で抗体価の陽転を確認する。
- ペア血清で4倍以上の抗体価の上昇を確認する。
- 間接赤血球凝集反応(IHA)や補体結合反応(CF反応)では感染後14日以降にIgG抗体が出現する。
- ネコ科の動物ではオーシスト検出を試みる。
治療するには
無症状で経過する例がほとんどであるが、下記薬剤投与による治療的診断法もある。
- クリンダマイシン塩酸塩12mg/kg、12時間ごとに4週間経口投与。
- トリメトプリム・スルフォンアミド合剤15mg/kg、12時間ごとに4週間経口投与。
- ドキシサイクリン5mg/kg、12時間ごとに4週 間経口投与。
予防するには
- 特に行動が活発となる3~4ヶ月齢のネコは屋外に出さない(室内飼育が理想的)。
- 生肉類は与えない。
- 屋外で活動しはじめる3~4ヶ月齢の幼ネコに予防剤を投与するのも一考に値する。